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業務改善助成金の対象経費|システム開発は使えるか

公開: 2026/09/25 / By 佐藤 駿介
読了時間: 約13分
約6,569文字

結論(要点)

業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資等が対象で、公式の案内には対象経費の例として「顧客管理情報のシステム化」「経営コンサルティング」が挙げられている。つまりシステム開発は対象になり得る。ただしパソコン・スマホ・タブレットの新規導入は特例事業者を除いて対象外。つまずきやすいのは見積書で、契約予定額10万円未満を除き同一条件で二者以上を取る必要があり、しかも交付決定後は最低価格を提示した者と契約する義務がある。見積先の業者が他業者の見積書を用意することは認められず、労働局が見積先へ直接確認する場合もある。助成額は対象経費×助成率(事業場内最低賃金1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4)と、コースと引き上げる労働者数で決まる上限額の、低い方。支給までには実績報告が必要で、導入前と比べてどれだけ効果があったかを具体的に書くため、着手時に導入前の作業時間を実測しておく必要がある。ソフトウェアには「導入物の写真」がないため、画面の記録と納品書で代替する。

こんにちは、合同会社SAiの佐藤です。中小企業向けに業務システムを作っています。

先日、お客さまから「業務改善助成金を使いたいので、申請用の見積書を出してほしい」というご相談をいただきました。区分を分けた見積書が要る、交付決定前に契約はできない、期限は月末——条件が細かい。そこで厚生労働省の交付要綱・交付要領・申請マニュアルを一通り読みました。

読んでみて分かったのは、制度の説明はどこにでもあるのに、「システム開発に使えるのか」「見積書はどう出すのか」を書いたものがほとんどないということです。公式の案内に載っている対象経費の例は、POSレジと、リフト付き特殊車両の2つだけです。

この記事では、ソフトウェアやシステム開発で申請するときに、実際にどこでつまずくかを、見積書を出す側の立場で整理します。

最初にお断りしておくと、当社は助成金の申請代行を行っていません。要件の判断や申請手続きは、事業者さまご自身か、社会保険労務士・弁護士にご依頼いただくことになります。ここに書くのは、あくまで見積書を出す側から見た実務です。記載は2026年9月時点の令和8年度版に基づきます。

結論:システム開発は対象になる。落ちるとしたら見積書

先に結論です。

  • システム開発・業務システムの導入は、対象経費になり得ます。公式の案内に、対象経費の例として「顧客管理情報のシステム化」「経営コンサルティング」が挙げられています
  • ただしパソコン・スマートフォン・タブレット等の端末の新規導入は、特例事業者を除いて対象外です
  • つまずきやすいのは制度の要件より見積書です。二者以上そろえる必要があり、しかも安い方と契約する義務があります
  • 支給までには実績報告が必要で、「導入前と比べてどれだけ効果があったか」を書けないと通りません

順に見ていきます。

そもそもどういう制度か

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その費用の一部が助成される制度です。

大事なのは、賃上げと設備投資がセットだという点です。設備投資だけでは対象になりません。

内容
対象中小企業・小規模事業者。事業場内最低賃金が、その年度の地域別最低賃金未満であること
申請の単位事業場ごと。工場と事務所があれば別々に申請
助成の上限最大600万円
回数同一事業所の申請は年度内1回まで

対象になる経費・ならない経費

公式の案内に載っている対象経費は、次の3区分です。

経費区分対象経費の例(公式の記載)
機器・設備の導入POSレジシステム導入による在庫管理の短縮/リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
経営コンサルティング国家資格者による、顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し
その他顧客管理情報のシステム化

「その他」に顧客管理情報のシステム化が明記されています。業務システムの構築は、ここに当たります。

一方で、対象外になるものもはっきりしています。

  • パソコン・スマホ・タブレット等の端末と周辺機器の新規導入は、原則対象外。例外は、物価高騰等要件に該当する特例事業者だけです
  • 自動車(特殊用途自動車を除く)は、令和7年度から対象外になりました
  • 交付決定前に導入したものは対象外。契約・発注・支払いのいずれも、交付決定を待つ必要があります

最後の点は特に注意が要ります。「先に発注して、後から申請」は通りません。

いちばんつまずくのは見積書

ここが本題です。交付申請書には二者以上の見積書を添付する必要があります。ただ、「2社から取ればいい」という話ではありません。

交付要領には、こう書かれています。

随意契約を行おうとする場合においては、契約予定額が10万円未満の場合を除き、原則として、同一条件により二者以上の見積もりを徴し、交付決定がされた場合には、最低価格を提示した者と契約すること。

読み落とされがちですが、安い方と契約する義務があります。お願いしたい会社が高ければ、その会社とは契約できません。

さらに申請マニュアルには、こうあります。

助成金交付申請書には、原則、二者以上の見積書を提出していただく必要があります(見積先の業者が他業者の見積書を用意することは、認められず、審査に必要な場合、労働局から直接見積先の業者へ見積内容の確認をさせていただく場合がございます。)。また、見積書は原則期限内のもののご提出をお願いします。

つまり、実務上こうなります。

  • 依頼したい会社に「もう1社ぶんも用意して」と頼むのは認められません。発注者が自分で取る必要があります
  • 二者には同じ仕様・同じ範囲を渡す必要があります。片方だけ範囲が広ければ、比較になりません
  • 労働局から見積先の会社へ、直接確認の連絡が入ることがあります。中身を説明できない見積書は危険です
  • 見積書の有効期限にも気をつけてください。交付決定は申請から少し先になるので、契約する時点で期限が切れていると困ります

見積書を作る側としては、ここが一番の実感でした。「システム開発一式 ○○円」の1行見積は、比較にも説明にも耐えません。工程ごとに区分を分け、それぞれ何をするかを書いておくのが安全です。

なお、販売元が限られていて相見積が取れない場合は、特許証等で客観的にそれを示す資料が必要になります。ソフトウェアの受託開発では、まず該当しません。

助成額は「率」と「上限」の低い方

助成額は、対象経費 × 助成率と上限額を比べて、低い方になります。

助成率は、引き上げる前の事業場内最低賃金で決まります。

事業場内最低賃金助成率
1,050円未満4/5
1,050円以上3/4

上限額は、コースと引き上げる労働者数で決まります。以下は事業場規模30人以上の場合です。

コース1人2〜3人4〜5人6〜7人8人以上
50円コース30万40万70万90万110万
70円コース40万50万130万180万230万
90円コース90万150万270万360万450万

ここで間違えやすいのが、「引き上げる労働者数」は従業員数ではないことです。数えるのは次の人たちです。

  • 事業場内最低賃金である労働者
  • その人の賃金を引き上げることで、賃金額が追い抜かれる労働者(ただしこの人もコース以上の額を引き上げる必要があります)
  • 対象は週の所定労働時間が20時間以上の雇用保険被保険者

たとえば120万円(税抜)のシステムを70円コースで申請する場合、4人以上を引き上げれば上限130万円なので「120万×助成率」がそのまま出ますが、2〜3人だと上限50万円で頭打ちになります。投資額を決める前に、ここを確認しておいた方がいいと思います。

日程が、想像よりきつい

令和8年度の日程は次のとおりです。

期限
申請期間令和8年9月1日〜その都道府県の地域別最低賃金の発効日の前日、または11月30日の早い方
賃金引き上げ令和8年9月1日〜発効日の前日までに実施
事業完了交付決定年度の1月31日

多くの都道府県で最低賃金の発効は10月上旬です。つまり申請期限は9月末あたりで、賃上げの実施期限も同じ日ということになります。思い立ってから動くには、かなり短い。

事業完了期日は「納品日・支払完了日・賃金引上げ日のうち最も遅い日」です。交付決定が10月下旬〜11月になることを考えると、実質3か月ほどで作って納めて支払いまで終わらせる必要があります。システム開発では、範囲の切り方が重要になります。

なお、やむを得ない理由がある場合は、理由書を添付して3月31日までとすることも可能です。ただし原則は1月31日です。

支給されるのは、実績報告が通ってから

交付決定はゴールではありません。事業完了後に事業実績報告書(様式第9号)を出して、それが認められて初めて支給されます。

様式第9号で求められるのは、次のものです。

5 導入した設備投資等の内容を証する書類(納品書、導入物の写真等)

(記載内容例)(1) 導入した設備投資等 (2) 計画の実施による生産性向上、労働能率の増進、業務改善の効果(導入前と比べて、どれくらい効果があったか等具体的に記入すること。)

ソフトウェアで申請する場合、ここで2つ困ります。

1つめ。「導入前と比べて」を書くには、導入前の数字が要ります。

着手は交付決定後です。そのときに測らなければ、後からは測れません。作業時間、月間の処理件数、その作業に関わっている人数——着手時に実測して記録しておく必要があります。当社が見積書を作るときは、業務分析の工程に「導入前の作業時間と処理件数を実測して記録する」を明記するようにしています。

2つめ。ソフトウェアには「導入物の写真」がありません。

機械設備と違い、写真に撮れる現物がない。代わりに、導入したシステムの画面の記録、納品書、設計書を残しておくことになります。これも着手前に決めておいた方がいい項目です。

あわせて、支払いにも決まりがあります。

  • 経費の支出は振込払い。ポイントによる支払、ギフトカードによる支払は不可
  • クレジットカード・小切手・約束手形等で、交付決定の属する年度の3月31日までに口座から引き落とされていない場合は対象外
  • 振込記録が客観的に分かる預金通帳等の写しが必要(総勘定元帳、現金出納帳でも可)

申請書に書く「事業実施計画」のコツ

交付申請書の別紙2に、事業実施計画を書く欄があります。公式の記入例には、こう指示されています。

生産性向上、労働能率の増進に資するものであることが分かるよう、数値等により具体的に記入してください。

構成は3つに分かれています。

  1. 現状の作業方法(問題点)、所要時間等
  2. 設備投資など業務改善計画の内容
  3. 計画の実施による生産性向上、労働者の労働能率の増進、業務改善の効果

公式の記入例は、POSレジの例でこう書かれています。「現状、お客様が来店された時、商品の会計をすべて手作業で行っており、繁忙時のレジ待ちの行列や、会計ミス等が頻発している」——専門用語のない、普通の日本語です。

システム開発で申請するときも同じで、審査する方がITに詳しいとは限りません。「API連携」「RPA」「基幹システム」といった言葉を並べるより、「これまで1件ずつ手で入力していたものが、画面で確認して承認するだけで済むようになる」と書いた方が伝わります。

費用見込額の欄も、品目ごとに分けて書く形式です。見積書の内訳をそのまま転記できるようにしておくと、金額が一致して説明が楽になります。

見積書は、区分を分けて出す

ここまでを踏まえると、システム開発で申請するときの見積書は、次のような形が扱いやすいと思います。当社が実際に使っている区分です。

区分中身
業務分析/現状業務調査いまの作業手順の書き起こし、導入前の作業時間と件数の実測
要件定義/業務フロー再設計/システム設計新しい作業のやり方の設計
開発画面と処理の作り込み
既存システム連携会計ソフトや社内システムとのデータのやり取り
導入設定/テスト/マニュアル本番設定、動作確認、手順書の作成、導入後の実測と比較

ポイントは2つです。

最初と最後に「測る」を入れておくこと。実績報告で必要になるからです。見積書に書いておけば、忘れません。

稼働後の保守費やサーバー・API等の利用料は、開発費と分けるか、見積書に載せないこと。これらは設備投資ではなく運用費なので、助成対象経費には含まれません。同じ紙に混ざっていると、「対象経費はどれか」と確認が入ります。

まとめ

  • システム開発は対象になります。公式の対象経費の例に「顧客管理情報のシステム化」が明記されています
  • パソコン等の端末の新規導入は、特例事業者を除いて対象外です
  • 見積書は同一条件で二者以上。しかも安い方と契約する義務があります。依頼先に他社ぶんを用意してもらうことはできません
  • 助成額は「対象経費×助成率」と「上限額」の低い方。上限は引き上げる労働者数で決まります
  • 着手時に、導入前の作業時間を実測しておいてください。後からは測れません
  • 交付決定前の契約・発注・支払いは対象外です

制度そのものより、見積書と証拠の準備でつまずく印象です。逆に言えば、そこさえ押さえておけば、システム開発は十分に使える対象だと思います。

当社では、申請用に区分を分けた見積書の作成と、導入前後の作業時間の測定までを含めてお受けしています。助成金の申請代行は行っていませんので、要件の判断と手続きは、事業者さまか社会保険労務士・弁護士にご依頼ください。初期費用0円・月額1万円〜で、これまで100社以上の中小企業さまのシステムを作ってきました。

「うちの業務でも対象になるのか」「この範囲でいくらになるのか」といったご相談は、お問い合わせからお気軽にどうぞ。範囲をうかがったうえで、先に金額をお伝えします。


本記事は2026年9月時点の令和8年度業務改善助成金の公開情報(厚生労働省「業務改善助成金のご案内」「交付要綱」「交付要領」「申請マニュアル」「申請書等の記入例」)に基づいて作成しています。最新の要件は必ず厚生労働省のウェブサイトおよび管轄の都道府県労働局でご確認ください。

この記事を書いた人

佐藤 駿介

佐藤 駿介

Shunsuke Sato

代表 / Founder & Developer, 合同会社SAi

中小企業のAI・業務自動化を専門とする開発者。営業マンや下請けを介さず、ヒアリングから開発・運用まで一貫して直接対応。「月額1万円から始められる、本当に必要なAIだけ」をモットーに、フルスクラッチ開発を中小企業の手の届く価格で提供している。

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