「営業にAIを活用する方法10選」のような記事は、たくさんあります。ただ、実際にどれが使われたかを数えた記事は見当たりません。
当社は営業支援の仕組みを自社で開発し、ある会社で運用しています。AIが自分で呼べる操作を21種類用意して、2か月動かしました。その操作ログを全部集計しました。
19名・対話1,579件・2026年8月2日〜10月2日の実測です。
結論を先に書きます。
- 使われたのは「調べる」が約85%。提案書やメールを作らせるのは約12%
- 各社が目玉にしているAIロープレ(商談シミュレーション)は、2か月で2回
- AIが自分でデータを保存する操作は0回。権限を与えたのに、誰も使わなかった
- 29名に配って、実際に使ったのは19名
何を作ったか
営業担当が普通の文章で質問すると、AIが自分で必要なデータを取りに行って答える、という形です。「明日この会社に行くのだが何を話せばいいか」と打つと、取引先を特定し、過去の商談履歴を読み、似た事例を引いて、商談前の資料を組み立てます。
AIが呼べる操作を21種類、あらかじめ決めてあります。
調べる(13) 取引先・リード・商談メモ・訪問シート・社内資料
過去の成功事例と失敗事例・研修の実施記録
作る(7) 商談前のブリーフ/想定問答つきのシミュレーション
断り文句への切り返し/フォロー計画/提案書のアウトライン
資料の選定/導入後90日の立ち上げプラン
保存する(1) フォロー計画をシステムに保存する
実測:21の操作が、何回ずつ呼ばれたか
全21操作の内訳です。
| 操作 | 回数 |
|---|---|
| 取引先の状況をまとめて出す | 756 |
| 最近動きのあった担当先 | 145 |
| 社内資料を探す | 137 |
| 取引先を探す | 107 |
| 過去の成功事例・失敗事例を探す | 106 |
| 商談前のブリーフを作る | 62 |
| 訪問シートを見る | 45 |
| 提案書のアウトラインを作る | 43 |
| フォロー計画を作る | 43 |
| フォローで成果が出た事例を探す | 32 |
| 切り返しトークを作る | 30 |
| 商談メモを見る | 29 |
| 研修・デモの実施記録を探す | 18 |
| 最近のリード | 17 |
| リードを探す | 10 |
| 資料を選定してまとめる | 4 |
| 導入後90日の立ち上げプラン | 3 |
| リード1件の詳細 | 3 |
| 資料のカテゴリ一覧 | 2 |
| 商談シミュレーション(AIロープレ) | 2 |
| フォロー計画を保存する | 0 |
分かったこと
① AIは「思い出す」係だった
1位の「取引先の状況をまとめて出す」が756回で、2位の5倍以上です。これに「最近動いた先」「取引先を探す」を足すと、やっていることはほぼ「いまどうなっているかを確認する」です。
営業がいちばん時間を取られていたのは、提案書を書くことではありませんでした。「この会社、前回なんの話をしたんだっけ」を思い出す時間です。
CRMを開けば書いてはあります。ただ、商談履歴・活動履歴・過去の提案・担当者が別々の画面に散っていて、集めるのに数分かかる。それを1回の質問で済ませられるようになった、ということです。
② AIロープレは、ほとんど使われなかった
商談シミュレーションは、2か月で2回でした。
この機能は、営業支援AIの製品でよく目玉として挙げられます。想定問答を作って練習する、というものです。実際に作って、使える状態で置いてありました。それでも2回です。
理由は単純で、目の前に本物の商談があるからだと思います。練習する時間があるなら、次の訪問の準備をする。そちらが62回使われている「商談前のブリーフ」です。
導入を検討するとき、デモで印象に残るのはロープレのような機能です。ただ、毎日使われるかは別の話だと考えたほうがいいです。
③ AIに保存させる機能は、0回だった
21の操作のうち、唯一データを書き込めるのが「フォロー計画を保存する」でした。2か月で0回です。
当社はもともと、読む操作と保存する操作をわざと別々に作っています。中身が同じ処理でも二つに分け、利用者がはっきり頼んだときにしか保存側が動かないようにするためです。AIに勝手に書き換えさせないための設計でした。
結果として、誰も頼みませんでした。
AIが出したものを見て、良ければ自分でコピーして使う。それで足りている、ということだと思います。「AIが自動でシステムを更新する」は、作る側が思うほど求められていないのかもしれません。
④ 29名に配って、使ったのは19名
正直に書きます。3分の1は、一度も使っていません。
使っている人は毎日のように使い、対話数も8月311件→9月433件と伸びています。ただ、全員が使う道具にはなっていません。
これは珍しいことではなく、どの会社でも起きます。「全員が使う前提」で費用対効果を計算すると、必ず外れます。
では、何から入れるか
実測を踏まえると、順番はこうなります。
- 散らばっている情報を、1か所から引けるようにする(ここが85%)
- 商談前のブリーフなど、毎回やる作業を1つだけ自動にする
- 提案書やメールの下書きは、そのあと
- ロープレ・自動保存は、要望が出てからでいい
1と2だけで、使われる量の9割を占めます。最初から21も作る必要はありませんでした。
逆に言うと、情報が散らばったままAIだけ乗せても効きません。AIが見に行く先がないからです。
費用とつなぎ方
いま使っているCRMは、解約しなくて構いません。この仕組みはCRMを置き換えるものではなく、その上に載せる形です。実例の会社でもSalesforceはそのまま使い続けていて、APIでデータをやり取りしているだけです。
当社の場合、初期費用0円・月額5万円(税別)からが目安です。人数では変わりません。既存CRMとの双方向の同期や、上長が確認する画面まで足すと8万円ほどになります。AI APIとサーバーの利用料は別途です。
市販の製品と比べたい場合は、商談の文字起こしツール比較に、各社の条件と「何人から受託のほうが安くなるか」の計算を載せています。
実装の範囲と、対応できない条件は営業支援基盤とAIエージェントの事例に書いています。入力が続かない話はSFAを入れたのに営業が入力してくれない場合の答えに、動く画面つきでまとめました。
よくある質問
Q. AI営業とは何ですか?
はっきりした定義はありませんが、実務では3つに分かれます。1つめは営業の情報を引き出すこと(この記事の実測では約85%)、2つめは提案書やメールの下書きを作ること(約12%)、3つめは商談の音声から記録を作ることです。「AIが営業を代わりにやる」という意味で使われることもありますが、実際に動いているのは人が判断するための材料を早く揃える使い方が中心です。
Q. 営業の仕事はAIに奪われますか?
この実測を見るかぎり、置き換わっているのは調べる時間です。「前回なんの話をしたか」を探す数分が消えました。一方で、誰に会いに行くか、いくらで出すか、どこで引くかという判断は人が決めています。AIが保存する操作が0回だったのも同じ理由だと思います。決めるところは人に残っている、というのが現時点の実態です。
Q. 営業AIを入れると、どのくらい時間が減りますか?
当社ではこの案件で時間の削減率を計測していません。計測していないものを数字で出すべきではないので、書きません。分かっているのは使われた回数だけです。もし時間で効果を示したい場合は、導入前に実際の作業時間を記録しておく必要があります。これをやらずに始めると、あとから効果を説明できなくなります。
Q. AIロープレ(商談シミュレーション)は必要ですか?
実測では2か月で2回でした。新人教育に力を入れている組織なら価値が出る可能性はありますが、最初に入れる機能ではないと考えています。デモで印象に残る機能と、毎日使われる機能は違います。検討するときは「これを週に何回使うか」を、現場の人に聞いてみてください。
Q. 小さい会社でも入れられますか?
人数の下限はありません。ただし、情報が散らばったままAIだけ乗せても効きません。AIが見に行く先がないためです。まずは商談の記録や過去の提案が1か所にある状態を作り、そのうえでAIを乗せる順番になります。営業が数名で、商談の数も多くない場合は、仕組みを作るより先にやることがあるかもしれません。その場合は正直にお伝えします。
Q. 作った21の機能のうち、要らなかったものはありますか?
結果から言えば、商談シミュレーション(2回)、保存の操作(0回)、資料のカテゴリ一覧(2回)、導入後90日のプラン(3回)、リード1件の詳細(3回)は、ほとんど使われていません。ただ、動かしてみるまでどれが残るかは分かりませんでした。先に全部を設計するより、少なく作って実際の呼び出し回数を見るほうが確実です。
まとめ
- 営業AIで実際に使われるのは「調べる」が約85%
- 1位は「取引先の状況をまとめて出す」756回。2位の5倍以上
- AIロープレは2回、AIが保存する操作は0回
- 29名に配って使ったのは19名。全員が使う前提で計算しない
- 入れる順番は、情報を1か所から引ける状態 → 毎回やる作業を1つ自動に → 下書き → その他
- 初期費用0円・月額5万円(税別)から。いまのCRMは解約しない
数字はすべて、2026年8月2日〜10月2日の操作ログを集計した実測値です。